航太郎くんから紹介を受けました福原です。
ぷしゅーっと変な音を立てながら潰れては航太郎くんたちに助けてもらっています。
助けると言えば救済。救済と言えば、そう、ブッダですよね。
あれは、僕たちがバンコクの王宮周辺を散策していた時のことでした。一人のトゥクトゥクのおっちゃんが僕たちに声をかけてきました。
「ワットポー、20バーツ!」
それは僕たちの目的地であり、価格も日本円にして80円ほど。相場から見て破格の提案でした。
少し怪しいなと思いつつ、近場を何往復もするから単価が安いのかな、と勝手に納得し、後部座席に乗り込みました。
するとおっちゃんは、
「3箇所回ってやるよ。ラッキーブッダ、タイファッション、それからワットポーだ。」と。
地図を渡され、ガイドブックでも見たことのない名前を指さされました。
「これはもしかして・・・現地人しか知らない穴場スポットなのでは!?」
と高まる期待。おっちゃんに言われるがまま、まずはラッキーブッダなるブッダに会いに行きました。
ラッキーブッダに到着。観光地から少し離れた、寂れた寺院。
門をくぐると、目の前には物乞いのおじいさん。指を擦り合わせるジェスチャー見せつけてきました。何とか対処し、寺院の中に入ると、僕たちの後ろから地元民らしきおじさんが声をかけてきました。
「こうやってお祈りするんだよ」と作法を教えてもらい、僕たちはラッキーブッダに手を合わせました。
曰く、その日は8日に一度のブッダデーで、そんな日に来た僕たちはラッキーとのこと。こうしておじさんとの雑談が始まりました。彼は流暢な英語で、
「僕は63歳、政府系銀行に勤めていて、経済学の博士号を持っている。ついこの間、みずほ銀行とミーティングをしたばかりだし、来週はニューヨークに出張するんだ。」
などとエリートなエピソードを語りました。今考えるとあからさまに嘘くさいですが、実のところ友達のために通訳に夢中になっていたため、あまり疑うこともなく素直に感心してしまいました。
しばらく雑談が続き、これからどこに行くのかという話題になった時、僕たちが持っている地図にある「タイファッション」という単語を見て
「何でこれを知っているんだ!」と彼は興奮気味に語り出しました。
「年に7日間しか開かれないスーツイベントで、カシミヤ100%のオーダースーツを激安で作れるんだ。僕もニューヨーク出張のために云々」
「75万のスーツが10万だぜ」
「君たちはラッキーだ!これも、ラッキーブッダのおかげだね」
おじさんと別れ、寺院の前で待っていたトゥクトゥクのおっちゃんに声をかけ、タイファッションに連れて行かれることに。
トゥクトゥクは市街地を離れ、右左折を繰り返し、怪しい雰囲気の漂う地区に連れて行かれました。高まる緊張感。スーツ屋の前には、3台のトゥクトゥクが停まっていました。
躊躇いながらも、仕方がないので中に入ると、待っていたかのようにソファに案内され、店員は徐にカタログを取り出しました。
この瞬間。僕は全てに気がつきました。
「今までの奴ら全員グルだ!出来の悪いスーツを法外な値段で買わせる詐欺だ!」と。
なぜか我々の目的地を知っていたトゥクトゥクのおっちゃん。ラッキーブッダにいたエリートおじさん。ニコニコでスーツを選ばせようとする仕立屋の店員。すれ違った物乞いおじさん。間違いない、全員グルだったのです。
店員が持ってきたアルバムには、ぼったくられたのであろう日本人がスーツに身を包み笑顔を見せる写真が何枚も。おいたわしや。
僕は「アルマーニのスーツを5万円で作れるチャンスを逃すのか?」と凄まれつつ、何とかここを脱出する方法を考えました。
結局、何かを買わなければ外に出してもらえそうになかったので、熾烈な値切り交渉(失敗)の末、友達と合わせて2本のネクタイを4000円で購入しました。痛い授業料でした。
店を出ると、トゥクトゥクのおっちゃんはキラキラな目で
「スーツは作ったのか?いくらだった?」
と聞いてきました。スーツは買わず、ネクタイだけ買ったことを伝えると、彼はあからさまに落胆し、無気力ながらもようやく目的地であるワットポーまで連れて行ってくれました。20バーツを手渡すと、おっちゃんはすぐに次の標的を探しに、夕日に輝くバンコクの街に走り去って行きましたとさ。
今考えると、スーツを買わされた方が面白かったかもしれませんね。
皆さんも、タイに行く際にはラッキーブッダにお気をつけて。
次回は、ラインアウトから滑り落ち、今なお落下し続けている吉原君です。オフに入ってからは元気そうですが、彼よりアンラッキーな男はいるのでしょうか。